余命宣告病棟第三話「それぞれの余命申告」
彼についてだが正直彼女ほど記憶にはない。
ただ、よく本の話をしていた。
色んな本を見ている彼は医学書も読んだことがあると言っていたがあぁいうものは頭のいい人が読むものだと妙に納得していた。
私はそんな意味もあるのか、彼は周りの人より多く話してくれた。
彼に友達はいないのかと聞いたことがあったが、彼は淡々と居ないとと答えた。
これからも作るつもりはないと……。
死んでいく人間に今更友達などいらないと言っていた。
それはどうなんだろうと診察後考えていた。
死んでいくからこそ人は誰かに依代して生きようとするものなんじゃないかと……。
それがないということは本当にいつ死んでもいいと思ってるんだろうか?
彼の手紙のも書いてあったが、
「あの頃の僕は何かを遺そうとも、なにかを思ってほしいとも思わなかった」
と、書いてあった。
実際最初の頃の彼には何もなかった。
心をどこかに置き去りにしてしまったかのようだった。
笑わない彼と笑う彼女。
一人きりの彼とみんなに囲まれてる彼女。
それが私は苦しかった。
二人に余命を申告した時の事思い出す。
家族は泣き崩れた。
残された日数はそう多くはなく子どもの彼らにはとても衝撃的なものだったと思う。
彼は静かに瞼を閉じたのを覚えてる。
とても静かで静かに独りきり受け止めた。
家族は泣き崩れて
「そんなこと嘘だ」
と何度も言っていた。
しかし、彼はそんな家族に静かに言った。
「しょうがない。そう言う運命なんだよ」
しょうがないのだろうか?
本当にそれで納得してしまっていいのだろうか?
彼の選択は延命治療を続け長く生きることだった。
手紙にもあったが
「なにかしたかったわけではなくすぐ死ぬことを選択出来なかった」
と書いてあった。
誰だってそうだ。
何かあるわけではない。
でも、死ぬことは怖いはずだ。
突然の「死」は受け止められないはずだ。
だから、彼が取った選択肢はみんなが取る当たり前のことだった。
しかし、彼女は違った。
余命宣告を受けたとき唖然としていたがすぐに苦笑いに変わった。
「うん、そんな気がしてた」
そう言って笑った。
家族を慰めていた。
「大丈夫だから」
そうしきりに言って笑っていた。
そして彼女が取った選択肢は延命治療はしないで自然のまま死ぬことだった。
私はかなり衝撃を実は受けた。
やりたいことだってあるはずなのに延命治療をしないということは限りなく「死」に近いということだ。
「私は生かされた。愛された。たくさんの人と笑いあえた。だから、この死はそのまま受け入れたい」
彼女の強さを私は見た。
わははと笑って言うその姿が愛おしくさえ思えた。
だから、最期まで私が出来ることをしようと思った。