余命宣告病棟第一話「最期の手紙」
『拝啓、この手紙が貴方に届く頃には僕はもうこの世に居ないことでしょう。
僕は、僕という人間は人と付き合うと言うことを煩わしいと思い生きてきました。
でも、僕は彼女に逢いました。
出逢ってしまった。
だから、僕たちを診てきた貴方にこの手紙を残します。
少し長くなるかもしれないですがお付き合い願いたいと思います。』
私の元に届いた一通の手紙。
それはとても丁寧に書かれていた。
ふいに外を見れば季節外れのヒマワリが咲き乱れていた。
彼らが見ることが、なかったヒマワリに私は心を寄せた。
今でも覚えている私が、たまたま居たあの場所に彼らは居た。
生き急いでいた。
それは余命という形の生き急ぎだった。
年頃だし遊びたかっただろう。
恋をして笑っていたかっただろう。
見てみたい景色もたくさんあっただろう。
でも、それさえ許されなかった。
私の記憶にもそんな生き急ぐ彼らがまだ映る気がしていた。
今でも笑って私を呼ぶのではないだろうかと思ってしまう。
そんなことはないと知りながらも……。
余命申告をされたら普通なら怖がったりするものだろう。
恐れや恐怖から逃げることが出来ないのだから……。
しかし、私が出逢った彼は恐ろしく静かで落ち着いていた。
これから死ぬなんて思わせなかった。
いつも一人で本を読んでいるのを見かけた。
周りの声など気にならないといった感じだった。
それは彼は一人きりなんだと思わせた。
きっと一人で受け止め一人で死ぬのだろう。
彼の余命がどれくらいかは知らないがとても静かな人間だった。
その反対にはとても明るい彼女がいた。
笑い声が絶えなく余命申告されてるとは思えない明るさだ。
周りも彼女を見てどこかで余命なんて申告されてなんかいないような、そんな気持ちにさせられていただろう。
笑い声はどこまでも続いていた。
彼と彼女はまるで正反対だったがどこか似ていた。
どちらも「死」を受け入れてたんだろう。
ここからは私の観察も含め彼の手紙の内容を話していきたいと思う。
言ってしまえば彼女は死に、また彼も亡くなった。
もうこの世にいない二人の話だ。