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ル・シエル・ブルー
第一話「リクラス・クラウン」

 

 

 

 

 

 


許しはしない。
私の大事なモノを奪った貴方達を必ず見つけて復讐やる。

忘れはしない。
あの日私は全てを失った。
大切な場所も。
大好きな貴女も・・・。

 

 


数年後。

あの日一国が滅んだ。
理由はとてもくだらないものだった。
私達騎士は突然の奇襲に必死で対応するもほぼ全滅だった。
私も深手を負い奇跡的に生き延びた。

もしかするとあのまま死んでいた方が良かったのかもしれない。
そう思う時さえあった。
でも、私は忘れられなかった。

だから、あの日あの場所で襲ったやつらを探し始めていた。

 

 


「ふう。こんな依頼ばかりね」

酒場で依頼書を見つめていた。
どれも戦争の依頼ばかりでため息しか出ない。

戦争なんて私には意味がない。
戦争なんて・・・。

「ため息なんてついて貴女らしくなですね、リクラスさん」

酒場のマスターがため息混じりにお酒を飲む女騎士リクラスに声をかける。

「くだらない依頼ばかりで嫌になってるのよ。」

グラスを傾けてお酒を飲む。
目の前には依頼書を並べていた。

「おや、貴女はこういうのお嫌いでしたか?」

マスターはグラスを拭きながらにこっと笑い話しかける。

「・・・。戦う意味がないわ」

まるでやる気なく呟く。
あの日の出来事を思い出しながら・・・。

「なるほど。ではこういう依頼はどうですか?」

「?」

 

 

 

闇が覆う時間帯。
魔物にとって一番動きやすい時間。

魔物が巣食う森の中。
彼女はそんな森の中を走り抜けていた。

「こんなことなら止めておけばよかったかしら?」

大きな木を背に一息いれる。
周りにはたくさんの魔物の気配を感じながら深手を負ったその体を少し休める。

マスターからの依頼はとても単純で戦争とは別のものだった。
神聖とされる森に巣食う魔物を倒すというものだった。
簡単に終わると思っていたがこれがそうはいかなかった。

「らしくない失態だわ・・・」

リクラスは自分の傷をみて座り込む。

「私ここで死ぬのかしらね・・・?」

私はまだ死ねないというのに・・・。
皆の仇を討つまでは死ねない。
生きなくてはならない。

その時近くの茂みが音を立てて揺れる。
気配を読みもう一度剣を握り立ち上がる。

しかし出てきたのは魔物ではなく一人の女の子だった。
こんな森に女の子がいるなんて・・・予想外だった

「大丈夫ですか!」

女の子は私の傷を見るなり近づいてきた。

「すぐ癒しますね」

どうやら神官らしいがこの傷を癒すなんて全くもって技量違いだわ。
私だって自分の傷の深さを知っている。
とても一神官が治せるなんて・・・。

「ギャオーン」

近くで魔物の鳴き声を聞く。
これは仲間を呼んでるんだわ。

「逃げなさい!私のことは良いから!」

巻き添えにして死なせたら死に切れないわ。
あの時の二の舞なんてまっぴらごめんだわ。

数匹の魔物がこちらに近づき襲ってきた。
だけど女の子は怯むことなく魔物と向き合う。

「光に集まりし、聖なる力よ。我の名により護る力となれ【フォースシールド】!!」

魔物は彼女のシールドに弾かれ吹っ飛ぶ。
そして止めを刺すように剣が突き刺さった。

「ミーシャ大丈夫か?」

男が一人出てきて魔物を一掃する。
剣士と思しき男は敵を一掃してから女の子、ミーシャと呼ばれてる子に近づいた。

「レイ。助かったわ」

「はいはい。迷子になるから一人で動くなよ」

そんな二人をを見て意識が途切れ始める。

私助かったのかしら?
それともこれは夢なのかしら?

 

 

 

なんだろうとても暖かい。
昔もこんな風に・・・。
もういない貴女やみんな・・・。

「白い天井・・・」

「目を覚ましましたか?」

目覚めたばかりの私の顔を覗き込む。
まるでずっとそこで起きるのを待っていたかのように・・・。

不思議と身体の痛みはない。
あれだけの深手が一日やそこらで治るとは思えない。
どれだけ眠っていたのだろう…。

「私はどれだけ眠っていたのかしら?」

そう聞くと子供が無邪気に笑うように彼女は答えてくれた。

「一日ですよ。私はミーシャ。アルテミシアと言います」

ミーシャはそういうとベットの脇の椅子に腰掛ける。

「私は・・・」

「リクラス、さんでしょう?」

私が名乗ろうとしたらまるで知ってるかのように笑って私の名前を呼んだ。

「何故名前を・・・?」

「冒険者の中では有名ですもの。知ってますよ」

フフフ、と笑う。
そんなに有名だとは私自身初めて知ったけど、どう有名なのかしら?
聞こうと思ったけど口を開くより先に部屋のドアが開かれた。

中に入ってきたのはあの時の剣士でお膳を持ってきた。

「ミーシャどうだ?」

ベットの脇まで来ると軽く頭を下げて挨拶する。
少し不機嫌そう見える。

「レイフォルトよ」

ミーシャが軽く紹介すると持ってきたお膳を突き出す。

「大丈夫そうならどうぞ」

そう言うと少し離れミーシャと仲良く話をしている。

どうやらこの二人に助けられてようね。
傷も綺麗に癒えているし。

「そういえば貴方達あんな森で何してたの?」

「仕事ですよ」

それ以上は言わせない笑顔だった。
私でさえ危険な目にあってるというのに・・・。

とても不思議な子だわ。
もしいるのなら天使というのはあういう感じなのかしら?
人の心を穏やかにしてくれる。

私の憎しみでいっぱいだった心がほんの少しだけど優しい気持ちにさせてくれる。

私の視線に気がついたのか「にこっ」と笑ってくれた。
その笑顔が印象的で心に残る。
優しく穏やかできっと私とは違う。
笑うなんてもう何年もしてない。

あの子の傍ならまた笑えるのかしら?
あの日置いてきた笑顔を・・・。
そして誰かを想うということ・・・。

 

 

 

次の日貴女達は私の前から姿を消した。
宿の主人に行く先を聞いたけどその行方は分からなかった。
もう二度と逢う事はないのだろう。
きっと出逢えたのは奇跡だったのだろう。

でもあの日貴女と出逢った事は忘れない。
まだこの世界にいる「天使様」。

そう思っていたのよ?
だって奇跡なんですもの。

「お隣良いですか?」

聞き覚えのある声で話しかけられる。
こんな寂れた酒場で相席なんてと思い顔を上げる。

「あ・・・貴女は!」

私は驚いて椅子から立ち上がる。

「また逢えましたね」

そうあの日と変わらない笑顔を見せた。

 

 

 


どうやら私の運命はまだまだ動き出したばかりみたい。
みんなの事は忘れない。
でも、もし許されるならもう一度騎士として戦って良いのかもしれない。
誰かを主人として護って戦うことが許されるのかもしれない。

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