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始導-shido-
第一話「始まりは君の笑顔まで…」

 

日は傾き辺りは暗くなりつつあった。
そんな中、世界の危機を免れ落ち着きを取り戻しつつあるファルントリアル大陸で、彼らは何時か父のように強くなりたいと思い旅をしていた。

双子の兄ディクセンは慎重派で片手剣を使い盾となっていた。
一方弟のレイフォルトは両手剣で兄とは違い前のめりだった。
そんな二人は今遺跡の最深部へと向かっていた。

リィエリンタルカレッジを卒業し、半年経ち旅にも慣れてきていた。
この遺跡潜りの依頼も手馴れたものだ。

「ここいらはもう目ぼしい物は無さそうだな」

弟のレイフォルトが大剣を下ろし兄に話しかける。

「油断するな、レイ。一掃したとはいえ、遺跡の中だ」

兄ディクセンは片手剣を構えたまま辺りを見回す。

遺跡の中を一通り周り最深部の扉の前へと来ていた。
一掃しただけあって辺りはし〜んと静まり返っていた。

「行くぞ」

慎重派なディクセンがゆっくりと扉を開ける。

中は眩しいくらいの光が溢れていて一瞬目を閉じる。
少しすると光にも慣れ辺りを見回す。
中は天蓋がなく、大きな月が顔を出していた。
四本の大きな柱に囲まれて奥には一本の剣が刺さっていた。

「あれは・・・剣?」

レイフォルトがずかずかと中に入りその剣に近づく。
ディクセンも敵がいないのを確認し近づく。

「大剣のようだな・・・」

ディクセンもマジマジと見る。
呪いの類も考えて注意深く見る。

「呪いの類はなさそうだがこんなとこにあるなんてなにか仕掛けでもあるんだろうか?」

慎重に剣の周りを見、調べる。

「抜いてみるか」

レイフォルトは慎重な兄とは違いそう言うと柄を握りしめ引き抜こうとする。
だが、どんなに力を入れてもビクともしない。

「兄貴も手伝ってくれよ」

必死で力を入れて抜こうとするレイフォルトに飽きれながらもディクセンも柄を握る。

その時だった。
辺りは目を開けていられないくらい神聖な空気と光に満ちた。
二人は目を瞑り敵の気配を探った。

しかし、特に気配はなかった。
少しすると光も落ち着き目を開ける。
二人はもう一度柄を握り力を入れる。
すると、あんなに力を入れてもビクともしなかった剣が抜けた。

レイフォルトが剣を上に翳すと剣はまるで新品のような輝き満ちていた。
ふと、ひらり、ひらりと上から落ちてくるものに気がつく。
二人はそれに気がつき剣を構える。

だが、落ちてきたソレに二人は唖然とする。

「・・・人・・・?」

レイフォルトが確認するかのように声に出す。
ディクセンはどう答えていいのか困りただゆっくりと落ちてくる女の子を見続けた。

空から落ちてきたのは小さな羽が生えた女の子だった。
二人は眠ったままのその子を宿まで連れて帰り目を覚ますのを待った。
傍らにはあの遺跡で手に入れた大剣を置き・・・。

「連れて帰ってきたのはいいがどうするんだよ…」

レイフォルトがベットの脇の椅子に座り反対側に座る兄に話しかける。

「あのまま置いとけないだろう。まだ、小さいし…」

ディクセンもこれからどうしたものかと考えていた。
空から降りてきた女の子はまだ年端もいかないほど小さく未だ目も覚まさない。
二人が悩んでいると袖を引っ張られベットへと視線を戻す。

「パパ・・・」

「「・・・え?」」

突然の一言に固まる二人。
女の子は目を覚ましたが何故か「パパ」と呼ばれた。
どう答えるか考える二人。

「パパ、どうしたの?」

女の子は黙り込む二人を交互に見つめる。
考えた末に二人はアイコンタクト取り頷く。

「パパって俺達のことか?」

レイフォルトが聞くと満面の笑みを見せて頷いた。
これには流石のディクセンも困り果てた。

全く覚えないことだ。
自分達が親になるなんて・・・。
だが、勘違いにしろ今この子は俺達を親だと思ってる。
恐らく一種のインプリンティングなのだろう。

「名まえは?」

ディクセンが頭を撫でながら聞く。
気持ち良さそうな顔をしながら彼女は答えてくれた。

「アリスマリン。アリスだよ」

その満面の笑顔は屈託のく嘘もなかった。
この時代孤児なんて沢山いる。
この子もそうなのだろうかと考え込んでいた。

「パパ・・・」

アリスは何かに気がついたのか顔を曇らせた。
アリスが指差したのはあの遺跡で二人で引き抜いた大剣。

「これがどうかしたのか?」

レフォルトが剣を持つ。

「アリスの剣」

アリスは真剣な顔でそう言った。
アリスが空から降ってきたきっかけとなった剣。
まるで主の目覚めを待っていたかのように輝きを放つ。

「アリス・・・お前本当は何者なんだ?」

ディクセンの問いにアリスは黙り込む。

「知らないっ!アリスはパパの子供だもん!!」

小さな体を丸くして泣きそうな声で顔を伏せる。
とても小さな子供のように愛おしささえ感じた。
二人はアリスを包むように抱きしめた。

今はこの子が何者でもいい。
きっと旅をしていれば本当の親に出会うかもしれない。
その時どうするかはアリスが決めればいい。
今は護ろう。
この小さな子供を・・・。

「アリス。顔を上げて」

ディクセンの優しい声にアリスは顔を上げる。

「一緒に旅をしよう。疑問は沢山ある。でも、今のままじゃ何も解決しない。だから・・・俺達と旅をしよう」

「俺達がアリスを護る。一緒に行こう」

レイフォルトが手を差し伸べる。
最初は曇らせていた瞳。
二人が笑いかけることでアリスにも笑顔が戻った。

「うん。アリス、パパ達と一緒にいる!」

満面の笑みでそう答えると二人に抱きついた。
運命のようなものを感じていた。
自分達がこうして剣を振るってきたのはこの子と出会う為だったのかもしれないと・・・。
そんな不思議な感情が湧き出ていた。

こうして不思議な親子関係で旅をすることになった。
これからアリスと数奇な運命に巻き込まれるとは知らずに・・・。

今はこの小さな子供の笑顔を護れるならばと・・・。
その為ならばどんな運命も受け止めようと心に誓いながら・・

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