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始導-shindoi-第二話「仮面の男と鎖連亭」


「てああああ!!」

あの日引き抜いた大剣を今はアリスが振るう。
だが、どうも慣れないのかそれとも剣に主と認められていないのか上手くは扱えてない。
現に今も魔物に攻撃するの傷ひとつ与えられない。

力が弱いというわけではない。
ただ剣がアリスを認めていないのだろう。

「アリス!下がれ!」

レイフォルトに言われ一歩下がる。
大剣使いのレイフォルトの一撃で魔物は倒れる。

「ここいらは少し敵が多いな・・・」

アリスの無事を確認しながらディクセンに話しかける。

「ルートを変えるべきじゃないか?アリスの負担になるし・・・」

レイフォルトはアリスを心配して道を変えること薦める。
今のアリスは剣は持っているものの決して戦力ではない。

「ごめんなさい・・・。アリスが足手まといだから・・・」

しゅんと落ち込むように下を向く。
まぁいきなり戦力になるとは流石に二人も思っていない。

だが、このまま遠回りで行けば夜に街には着かない。
そう考えるとルートを変えるのは望ましくない。
ディクセンはどうしたものかと地図を広げ考える。

「街より近いとこで神殿がある。今日はそっちへ向かおう」

ディクセンはそう言うと森とは違う方向を指す。
夕刻も近い。
なるべく急ぎたいところだがアリスの足ではそうは言ってられない。

「りょーかい。アリス少し休んだら行こう」

落ち込んでるアリスの頭を撫でて近くの大木の根っこに座る。
アリスもトボトボそこまで行き座る。

アリスと出会ってから一週間ほど経つが情報は全くなく、とにかく色んな神殿や役に立ちそうな情報を探して旅をしてる。
アリスの剣と言っていた剣も調べてみるものの、アリス以外はただの鈍らと化してディクセン達では扱えなかった。

主の覚醒でも待っているのか、ただ輝きだけを放つ。
当の本人はまるで扱えない剣に落ち込んでいる。
剣捌きが悪いわけではないのだが何かが足りない。
その何かがディクセン達にも分からなかった。

進路を変え神殿へと向かう。
敵は思ったほどいなく、完全に日が暮れる前に神殿へは着くことは出来た。
今日はここで一晩過ごす。
神官に挨拶をし部屋へと案内される。

一日戦いながら歩いたものだから足がむくんでいる。
アリスはブーツを脱いでベットへと腰掛ける。

「ねぇ。レイパパ。アリスは戦闘のセンスないのかな?」

荷物を置き同じくベットに座って寛ぐレイフォルトに話しかける。

「そんなことはない。やっかいなのはその剣だ」

そういうとアリスの剣を指す。
アリスも納得しているのか黙り込む。
自分でもこの剣はやっかいだと思ってるようだ。

思うように動かない剣は何かを待つように静かに置かれてる。
それは何かはまだ誰にも分からないかった。

「俺たちが扱っても鈍らだしな。アリスが持てば違うかと思えばそうでもないし・・・」

ディクセンが剣を掲げてみせる。
あの日見せた輝きは今はない。
だが、その中に秘めた何かは感じる。

「でも、それはアリスのだよ。間違いないもん」

アリスはぶすったれて見つめる。
厄介なものを自分のものにしてるなとレイフォルトは心の中で思ってしまった。
自分のはその辺のものだからそう厄介じゃない。
学生時代からの相方でもある。

「さぁ、旅の疲れもある。夕飯にして休もう」

ディクセンが荷物を纏めると二人を夕飯へと誘う。
朝になり神官に挨拶を済ませると三人は街へと向かう。
暫くは資金稼ぎの為にこの街に留まる事にした。
ディクセンとレイフォルトは交代で警備の仕事をしたりしていた…。

そんな日常が繰り返されるなか、いつもとは違う朝がやってくる。
目覚めた3人にそれは起こった…。

この地方では珍しい雨が降った。
いつもなら交代で警備の仕事をしていたディクセンとレイフォルトだったが急遽欠員が出てしまい二人はアリスを宿に残し仕事に行っていた。

アリスはというと窓辺で雨が奏でる音を聞きながら大人しく待っていた。
毎日受けていた訓練も今日はお休みである。

自分の手を見ると豆が出来ていた。
あの日から少しずつ受けた訓練の賜物だ。
あとは鈍らと化した自分の剣だ。

「ねぇ、なんでちゃんと戦わせてくれないの?」

アリスの問いに剣は答えてはくれない。
当たり前といえば当たり前だ。
喋る剣などそうある筈ない。

「・・・はぁ。下でお茶してこよう・・・」

そう言ってブーツを履き部屋を出る。

一階では騒がしく冒険者達で賑わっていた。
そこの空いてる席に着くとお茶を頼み一人で冒険者達の会話を聞きながら過ごしていた。
実につまらない会話にどこかに行こうか考えていた。

「お嬢さん」

ふいに声をかけられ顔を上げると仮面を付けてる人が向かい側に立っていた。
怪しいと言わんばかりのその容姿に黙り込む。

「怪しい者じゃありませんよ、お嬢さん」

男の身長はディクセン達より少し高く、長い三つ編みをしていた。
服は黒いコートに包まれて怪しさが溢れていた。
おまけに仮面で素顔は見えない。

「どこを見ても怪しいんだけど・・・」

その答えに男は笑う。

「そうですかねぇ〜?まぁ私の見た目はどうでも良いじゃないですか。そんな事よりもお嬢さん。何か悩み事があるようですね、顔に出ていますよ?『わたしはパパたちの役に立ってないんじゃないか?わたしはパパ達と一緒に居てもいいんだろうか?』ってね?もし、その悩みを解決したいなら、裏通りにある「鎖連店」という店を訪ねてみてください。そこの主人がきっとあなたの力になってくれますよ?」

仮面の男がアリスの顔を覗き込みながら言う。仮面から覘く彼の目は微笑んでいるようにも見えた。

「それと最後にひとつ忠告を…、今日は街の外には出ないほうが良いと思いま
すよ?お嬢さんにとって途轍もない不幸が起こるでしょう」

そう言うと男はどこかへと行ってしまった。

「変な人だったなぁ…、気晴らしに買い物でも行こうっと、雨だけど…」

アリスはそう呟くと自分の大剣を携えただけの軽装で少し弱くなった雨の中に飛び出して行く。
しかし、アリスの胸中には先ほどの胡散臭い男の言葉がいつまでも残っていた。


一方ディクセン達はというと、順調に仕事をこなしていた。
いつもは起こる些細な喧嘩も少なく、しとしとと降る雨に嫌気がさしていた。

「鬱陶しい雨だなぁ」

レイフォルトはそう言いながら濡れた服をタオルで拭いていた。

「そんな事よりアリスが心配だ。大丈夫だとは言っていたが・・・」

心配そうにため息をつく。

「まぁもう少しで仕事も終わるし、土産でも買って帰ろうぜ」

そう言うとディクセンの横に立ちしとしとと降る雨を見た。

二人は雨の音だけが響く中で佇んでいると黒い影が駐屯所に近づいた。

「こんにちは」

黒い影は黒いコートに身を包んだ仮面の男だった。
声は穏やかでとても静かなイメージだ。

「こ、こんにちは」

不思議に思いながら挨拶を返す。

「こんな雨では仕事も忙しくはないでしょう?」

男は二人の脇に立ち雨を見る。

「でも、これから一騒動ありますよ。もしそんな時お困りなら裏通りにある「鎖連亭」に行って見るといいですよ」

男はそういうとまた雨の中に消えていった。

この時ディクセンは気がついていた。
雨だというのに男は濡れていなかったのだ。
ディクセンは男の言うことも気になったが今は早く帰ることにした。

どこかに胸騒ぎを感じながら・・・。

ゴーン、ゴーン。
神殿の鐘が鳴り響く。
ちょうど夕刻を知らせているのだろう。
アリスはそんな中裏通りを歩いていた。

街をぐるりと回り行くとこも無くなってしまったのでさっきの仮面の男の言っていた場所を探していた。
裏通りは暗く、人気はなかった。
街がこんなにも静かなものかと思うくらいだった。

「・・・鎖連亭かぁ。どこにあるんだろう・・・」

だいぶ歩いたが見つからない店に本当にあるのだろうかと疑問に思い始めていた。
やっぱり胡散臭い人から聞いたから嘘だったのかもしれないと諦めかけていたその時だった。

「迷子の子猫ちゃん。一人でこんなとこ歩くもんじゃないぜ?」

ふいに声をかけられ振り返ると大きな男の人が荷物を持って立っていた。
アリスはジロジロとその男を見る。

「あんまり人をジロジロと見るもんじゃないぜ?まぁこんな大男そうはいないだろうけどな!」

そういうと笑って男は歩き出す。
陽気な男は少し歩くと振り返り声をかけてきた。

「子猫ちゃん。行くとこが決まってないならおいで。ホットミルクくらい出すぜ?」

そういうと手招きする。
アリスは胡散臭いと思いながらも好奇心には勝てず後を着いて行く事にした。

そして着いた場所は「鎖連亭」。
探しても見つからなかったその場所に男は中へと入っていった。
アリスは周りを見て場所を確認するがもうどこを歩いていたか分からなくなっていた。
さっきも通ったような気もするけどそれは定かではなかった。

「子猫ちゃん。早く入っといで。濡れるぜ?」

入り口から顔を出し中に入るように促される。
いそいそと入ると中はとても静かでお客は誰もいなかった。

店の中をぐるりと見つめるとテーブルが三つばかりあるくらいであとはカウンターが五席ほどの小さな店だった。
アリスは促されカウンターの真ん中に座った。

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