top of page

天空の旅人第一話1「伯爵と花嫁」

これから始まる小さな事件の足音にまだ僕らは気がついてはいなかった。
まだ、その人は彷徨っていたからだ。

繁華街。
足早に歩く若者達の声が響きわたる。
笑い声に混ざり罵声さえ聞こえるがそれさえも若者達の笑い声の中に消えていった。

その繁華街の中にある一角に「彼」は現れた。
濡れたような髪に虚ろな瞳。
ただそこに突然、前触れなく現れた。

「お兄さん、大丈夫?」

一人の若者が「彼」に気がつき声をかける。
それに反応して男は顔を上げた。
ドキっとするようなくらい美形で日本人とは違い鼻筋が通り綺麗な顔だった。
少女は見惚れてしまった。
この世離れしたその顔はどこかすがる様な表情だった。

「君は…」

男が微かに呟いたと同時に彼らはその場所から消えていた。
まるで神隠しにあったように…。
少女はその日以来見つからない。
捜索願いも出されたがきっと見つかることはないだろう。
これが、「彼」の最初の出来事だった。

それから全国の被害は広がった。
女子生徒だけが神隠しに遭う。

「彼」の存在は誰にも見えておらず、「彼」が現れることは誰にも分からなかった。

ただ、「彼」を見た人は誰一人と帰ってはこなかった。

bottom of page