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夢想館第十話


どうして、食べることがいけないなんて決めたのさ?
いいじゃん。
だって、美味しいんだもん。

同じような奴らは言うんだ。
食べてばかりいる僕が、馬鹿馬鹿しいって…。
じゃぁさ、君達だって同じだろうと?
と、僕はいつも思うんだ。

「あぁ、お空からいっぱいの食べ物が落ちてきたらどんなに幸せだろうか?」

ふっ、っと空を見上げる。
有りもしない、妄想に耽る。

「君はいつまでそうしてる気なんだい?」

そんな声にビックリして目を開ける。
そこは、お店になっていて少年が椅子に座り猫を抱えてる。
にっこりと笑う少年。

「ここは…?」

不思議な空間のこの店。
ただ、空を見上げていただけなのに…。

「ここは、夢想館。願いを叶えるお店だよ」

少年はカップにお茶を注ぎながら答える。
突然来た筈の僕の事なんて気にしないように…。

「さて、ここに来たからには願いを叶えよう」

願い…。
僕は目を瞑った。

噂で聴いた。
先日、『怠惰』と『色欲』が本当の願いを叶えて交代した、と…。

そうか、次は僕の番なんだ。
僕も『暴食』の任が解かれてしまうんだね…。

「なるほどね、僕も大罪から降ろされてしまうんだね」

「それは、君の願い次第じゃないかな?」

カップを口から離し、答える。
なんだかとても優雅なその姿に僕はジッと見てしまった。

「ここで、さっきの妄想を願い事としても…君は違うって言うんだろうね?」

少年は優しく微笑んだ。
言葉じゃなくて、その雰囲気で答えてくれたのが僕にも分かった。
いや、本来僕はこう言う静かな、落ち着いたなんでもない時間が好きだ。

「僕は『暴食』だからみんな馬鹿にするけど、僕は本当は…」

言いかけて、辞めてしまった。
馬鹿にされてしまうんじゃないかと思ってしまったからだ。

しかし少年は目が合うと優しく微笑んで、まるで僕の言葉を待っているようだ。
僕の言葉をちゃんと聞いてくれる、そんな雰囲気を出してくれている。
だから…。

「…君は僕を馬鹿にしないのかい?」
 
「いったい、何に対して僕は馬鹿にすれば良いのかな?」

少年は変わらず、優しく微笑んで応えてくれた。
それは、今まで僕を馬鹿にしてきた『あいつら』とは全然違かった。

少年は理解っているのかもしれない…。
本当の『僕』と言う生物はどんなものかを…。

「僕は…『暴食』だから、皆僕が食べるだけの生物だと思ってるようだけど…」

「『暴食』だからと言って、何も考えてないと判断するのは違うと思うよ?」

あぁ、やっぱりだ。
理解してくれてるんだね…。

「…僕は食べる事で人と話しが出来て、楽しく過ごせるんだと思うんだ。それは、団欒っていうものだと思う」

僕の言葉に少年は静かに頷いてくれた。
それから静かに、時間は流れた。

少年は僕の話をちゃんと聞いてくれた。
僕にとってそれは何世紀ぶりの【団欒】だった。

馬鹿にされない。
一緒に笑い合い、楽しい食事。

「…そろそろ…時間なのかな?」

ポツリと呟いた。
分かるんだ。
僕達大罪が解かれていく感覚が…。

どれほどの時が僕にまとわりついて居たんだろうか?

「少年…僕の罪を聞いてくれるかい?」

「いいよ」

少年は動じずに、静かにカップを置き見据えた。
僕もグッと覚悟をした。
これは、僕が【暴食】として受けた罪の断罪だ。

「僕はこの通り食べる事が好きで、入ってはいけないと言われたキッチンに入った事が始まりなんだ」

それは…全ての罪を知った、僕の大罪…。

「一応、貴族のでなんだけど、戦争のせいでそれは酷かった。でも、僕は食べる物に困った事がない。…理由はその日知った…」

「…君を生かすために行われていた。君は何も知らなかったんだ。仕方ないんじゃないのかい?」

「…知ってるんだね…。」

「どういう事?」

「…多くの人が死んでいった、戦争の中、死体の処理にはお金がかかるんだよ。そして、餓死させまいとした家族…お爺様の意向で…死体を喰べて僕達は生きていた…」

「…君は知らずうちに食人鬼にされていた…」

暫く沈黙が流れた。
許されたくて、話したんじゃない。
僕は僕の罪を忘れない為に、これからも新しい【暴食】が現れた時に同じ過ちを繰り返さない為しょく罪した。

「君の大罪を忘れぬ為に、願いは聞いた。さぁ、記録を永劫残していこう」

そういう時、少年の手には分厚く黒い何かがかかった本がペラペラとめくられた。
その光景は、魔法使いがまるで魔法を使うかのように妖美だった。

これで、僕はやっと罪から解放されるんだね…。
大罪だからじゃなく、人として消えていける…。

「まだだよ」

「?」

少年は消え掛ける僕の手を掴み微笑んだ。

「輪廻の輪から解放を…君は転生して、新しい人生を今度こそ自分らしく幸せに送るんだよ」

暖かいそれは、僕は少年の涙のように見えた。
触れた腕から消えかけていた黒い何かから眩しいくらいの何かに変わり、心から暖かい気持ちになった。

「なんで、助けたんだい?」

猫は少年の肩に乗るといつものようにふてぶてしい顔で聞いた。
膝をつき、少し生き苦しそうな少年は、にこっと笑った。

「そうだね…彼は消えてっしまうに勿体無い魂だと思ったから、かな?まぁ、ちゃんと対価はもらってるよ」

少年は立ち上がり開きっぱなしの店の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ー夢想館ー
どんな罪でも聴いてくれるまるで教会のようなお店

ー夢想館ー
罪人の罪を消し去ってくれるお店

ー夢想館ー
時に、輪廻の輪から解き放してくれるお店

ー夢想館ー
それは、全ての人に等しく訪れる優しい時間をくれるお店


一体どれほどの終わりが君を待っているだろうか?
それは、全て貴方次第…

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