top of page

「彼女さんと彼氏さん」其の一

いつもの様に駅前で携帯を弄りながら、彼氏さんが来るのを待っている。
今日は秋晴れでカーディガンを羽織るくらいが丁度いい。

秋はオシャレが出来て私は好きだ。
少し高いブーツを履いて、少しシックな色合いでフワフワのスカート。
髪は下ろして、控えめなヘアピンで女の子らしさをアピール。

でも、鈍感な彼氏さんが気が付くとは思えない。
けれど、それでもオシャレをするのが女の子である。

「おまたせ」

不意に声がして顔を上げる。
ラインを見ていたが駅に着いた連絡がなかったので驚いた。

「着いたなら、ラインしてよ…」

「吃驚させようと思って、さ」

大人の余裕顔で笑う彼は、実はあんまり好きではない、と言うか不服だ。
いつかその余裕そうな顔を壊したい。


電車に揺られて仕事の疲れからか、少し眠っていたようだ。
いつのまにか、いつも連絡する駅は通り過ぎていた。
まぁ、たまには驚かせるつもりで、声をかけて見るのもいいのかもしれない。

電車から降りて、ホームを後にすると、いつもの場所で携帯をジッと見ている彼女を発見する。
どうやら、こちらには気が付いていない。

いつも、逢うたびに可愛らしい格好をしているので、心の中では他の男が寄り付かないか不安ではある。
しかし、そんなことを言ったところで可愛らしい彼女が見れなくなるのも残念だから口にはしない。

「ね、今日はどこに行く?」

「んー、そうだなぁ…」

少し上目使いで彼を見ると、彼はいつもの様に笑って考える。
少しは意識して欲しいのだけど…。

 


上目使いで腕に抱き着く彼女は可愛い。
さて、今日は2人どんな思い出を作ろうかなぁ?
少しづつ彼女との思い出に心を支配される俺は、おかしいのかもしれないがその支配に安堵する。
この思い出に彼女も支配されていけばいいのになぁ。

 


「よし、ちょっと歩くけど大丈夫?」

「うん」

携帯を片手に何処か行き場所を決める彼。
いつも、逢ってから行き場所を決めるのは…私を見てくれてたらいいのになぁ。
気分とかじゃなくて、私との時間のために、可愛くしてる私の為に選んでくれてたらとか思うけどそれは夢見すぎるよね?

とにかく、今日も彼に任せて歩いて行こう。

 

彼女に合わせて行き場所を選ぶ。
大体の候補的なものは用意するが、やはりこうして逢ってから行き場所は決めた方が楽しい。
彼女の為に考えるこの少しの時間さえ愛おしい。
俺との思い出をずっと忘れないでいてくれたらどれだけいいのだろうか?

 

(あぁ、私だけを見てくれてたらいいのになぁ)

(あぁ、俺だけを見ていてくれてればいいのになぁ)

bottom of page