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夢想館第九話

 

 

 

良い寄ってくる女を良いように使う。

そんなの当たり前だろ?

ヤれたらそれで良いんだから。

 

愛?

そんなものなんかなんの信用があるって言うんだ。

確かなのは体の繋がり。

繋がってるときこそ安心出来る。

 

「何をしてるんだい?」

 

猫がガサガサと何かをしてる少年に話しかける。

 

「いや、ちょっと…」

 

「そんなに俺待っててくれたのか、少年」

 

どこからともなく彼は現れ少年に抱き着く。

 

「…来たか…このエロスが…」

 

彼は笑いながも少年から離れない。

少年は鬱陶しそうに彼を突き放しいつもの椅子に座る。

 

「エロスだなんて酷いなぁ。俺はインキュバスだから仕方ないことだろう??」

 

「猫、噛みついてもいいよ」

 

「え!?」

 

「あははは、手厳しいな」

 

少年はいやいやお茶を出す。

そして盛大にため息をつく。

 

「君はここに来る資格を得ている。願いを叶えよう」

 

「…そういえば、少年よ。こないだはうちの可愛い怠惰ちゃんの願いを叶えたって?」

 

「たまたまね」

 

少年は素っ気なく答える。

お茶を飲み干す勢いでお茶を飲む。

 

「少年は一体どれくらいの俺たちを導いてきたんだ?それともそれさえ誤魔化すか?」

 

彼はソファーに座り口元に手を組み表情を隠す。

笑っているのかそれとも怒っているのか、それを読み取らせはしなかった。

少年はチラッと見て、視線を戻す。

お互い牽制しているようだ。

お互いの意図を悟らせないように上手く隠す。

 

「少年」

 

先に口を開いたのは彼だった。

少年は視線だけ向ける。

 

「俺は…あとどれ位インキュバスでいられる?」

 

「……」

 

長い沈黙が流れる。

少年は視線を外し小さく答える。

 

「…もうすぐだよ…」

 

「…そうか…」

 

そういうと、彼は立ち上がり店を出ようとする。

 

「願いは?」

 

「…少ししたら、また来る…」

 

そう言い残し彼は立ち去った。

少年はいつものように鏡を見つめる。

彼は向かう。

いつものあの場所に……。

彼をインキュバスで無くす場所。

 

それは病院だった。

静かにベットに眠る少女。

その脇に立ち見下す。

少女は夢を見る。

彼は静かに見守る。

 

「君のナイトももうすぐ終わってしまう。……君は怒るかい?」

 

優しく触れてキスをする。

彼はそうして彼女に生気を分け与えていた。

 

「君とは夢の中だけではなくどこかで出会えたらよかったのに……」

 

彼はそう告げるとソッと姿を消す。

彼はありったけの生気を彼女に渡した。

本来インキュバスである彼の行動は問題だった。

 

「少女を助けるために生気を集めてるなんて上の者が知ったら問題だね」

 

「問題になったから彼は大罪から落とされるんだよ」

 

「え……?」

 

「もう、店に来ることはない。対価をもらい願いを叶えよう」

 

少年は高く手を伸ばし彼からその黒い翼を奪う。

彼は意識を深く落とし静かに闇へと消えていく。

 

「君の願いは叶えよう。さぁ、君はもう大罪でもインキュバスでもない。自由だよ」

 

少年は消えていく彼に最後に声をかける。

彼は消え行く中笑ったようだった。

【ざまぁみろ】

と、誰かに言うように……。

 

「退院おめでとう」

「奇跡的な回復だよ」

「本当にお世話になりました」

 

彼女はたくさんの手術の結果退院出来た。

家族は医者たちと会話する。

そんな中彼女は空を見上げる。

彼女は知っているからだ。

自分を助けた夢の中のナイトを……。

 

日常を送る中彼女は迷子になった。

明かりを灯すその店に入る。

 

「こんばんは」

 

少年主人が笑って彼女を迎える。

 

「君をずっと待っていたよ。君の願いを叶えるために」

 

「…」

 

少女は黙り込む。

すると、奥の方から声がする。

 

「あんまり彼女を脅かさないでくれよ」

 

それは彼女にとって奇跡だった。

そう、夢の中でだけ逢えたナイト、インキュバスの彼が現れた。

コツコツと歩く彼は笑って彼女を抱きしめる。

 

「もう、夢では終わらせないよ」

 

それを見守り笑う少年と猫。

世界はいつも優しいわけではない。

だけど、この世界だけは優しさで満ちていた。

 

 

 

 

 

ー夢想館ー

大罪でもインキュバスでも受け入れてくれる優しいお店

 

ー夢想館ー

夢の中だけでは終わらせないでいてくれるお店

 

ー夢想館ー

優しい世界を与えてくれる優しいお店

 

 

愛なんて知らなくたってきっと本当の愛を知ることが出来るでしょう。

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