余命宣告病棟第七話「夕陽」
あれから、彼女に誘われ色んな所を散歩に付き合わされた。
それは些細なところから隠れ家的な場所まで……。
本当によく知っているな、と思うとこまで付き合わされた。
それは一種の冒険的なものさえ感じ始めてた。
勿論写真は撮らされたが…。
それは些細な彼女と彼の日常だった。
笑う彼女、不満げな彼。
そんな当たり前がどれほど続いていただろうか?
とても長く感じたが、きっと日数はそんなでもないんだろう。
その代わり、写真は山のように撮らされた。
溢れる写真を机に広げる。
いつの間にこんなに撮ったんだろうかと思うほどだった。
そしていつものように彼女に呼び出されて屋上へと向かう。
足取りは軽かった。
「先生遅いー」
「私にも仕事と言うものがあるんだから我慢しなさい」
2人が花壇で何かやってるのを見て近くに寄る。
「先生~夏になったら楽しみにしててよね!」
「なんの話だ?」
「吃驚させたいらしいよ。めんどくさいから付き合ってあげてよ」
そう言うと二人は花壇で作業をする。
私は少し離れれたベンチに座り写真を撮る。
文句を言いながらも笑ってる彼に少しは彼女の影響を受けているんだろうかと考える。
自分らしく生きているんだろうかと思い見守る。
今まで見せたことのない顔で笑って楽しんで、そんな姿を見せてくれている。
そんな梅雨が明ける頃だった。
晴れ間を見せる空を見上げ彼女は今日も元気そうにしている。
「せんせー。ねぇねぇ夏になったらみんなで花を見よう。大きなお花!」
「花火とかもいいね」
「それ賛成!」
2人は盛り上がっていたが本当はそんな時間が彼女たちに残されているのか疑問でもあった。
笑って過ごせる日々に終わりは近づいていた。
「あれ?先生お出かけですか?」
「少し出かけてくる。なにかあれば連絡してきてくれ。急いで戻る」
私は一人買い物に来ていた。
正直あんまりこういうとこで買い物には来ないので迷う。
お目当てのものを見つけてもまだ悩む。
なぜなら種類が色々あるからだ。
彼女が喜びそうなものや彼なら好きかもしれない物とか考えるとなかなか選びきれない。
「お探し物ですか?」
急に店員に話しかけられ慌てる。
「あ、いや大丈夫です」
店員はお「お困りならお聞きください」と言って下がった。
私は長居は無用だなと思い適当に選びささっと店を出た。
慣れないことはするものではないなと思った。
しかし、買えた満足もあった。
二人の顔が浮かぶ。
急ぎ足で私は病院へと戻った。
いつもより赤い夕陽を二人は見ているだろうか?
何気なく写真を撮る。
見えてるだろうか?
この景色を……。
君たちのその瞳に……。
「すまない、戻った…が、何故君がいる?」
「せんせー遅いよ~」
「すみません、どうしても先生を待ちたいと言うものですから…」
「我儘なんだよ、君は」
そう言いながらも彼もちゃっかりとお茶を飲んでいる。
全く頭が痛くなる子どもたちだ。
「先生写真撮るの下手過ぎるよー。これなんか私ぶれてるじゃん!」
机に広げた写真を一枚取り文句を言う。
隠しておくのを忘れていた。
まさかここまで来るとは思わなかったが彼女ならあり得なくもない。
「じゃぁちょっと待ってくれ」
私はそう言うと二枚写真をコピーした。
そして2人に渡した。
「綺麗!」
「夕陽ですか?」
「もう沈んでしまったが今日の夕陽は一段と綺麗だったからな」
二人は顔を合わせて笑う。
まるで小さな子どもが小さな事で喜んで笑いあってるようだった。
私は白衣を着て夜の診察の準備を始めた。
と、言っても私の担当はこの二人なのだが……。
今日も2人が生きてることが私は嬉しかった。