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始導-Shido-第三話「運命の時」

店の中に煙草の煙が漂う。
客といえば仮面を付けてる男がカウンターに座っている。
とても静かだった。

「来るかねぇ?」

煙草を蒸かしながらヴェルグが呟く。
雨が止んだ空には綺麗な紅い月が見えていた。
仮面の男は紅茶を口にしながら笑う。

「来ますよ。他にツテなんてないんですから」

もっともな事を言う。
確かにあの二人にはツテなんてない。

コツコツと足音が響く。
それは静かで落ち着いてる。
そして「ぎぃ」と扉を開ける。

そこにはディクセンが立っていた。
周りを見てマスターと思しきヴェルグを見つめる。
そして仮面の男を確認する。

「どうやらここで間違ってまいようだな?」

そう呟くとカウンターまで歩く。
ヴェルグは笑う。

「随分と来るのが遅かったな」
そう呟くと真剣な顔でジッと見つめる

「違いますよね?本当はここが恐ろしかったんですよね?」

そう言われ硬い表情をする。
実際すぐにでも来れた。
でも、レイフォルトに任せれ出てから少し時間がかかった。

本当にアリスの為になるのか今更ながらに悩んだ。
アリスをこんな目に合わせたのは彼らではないのだろうかと思った。
だが、彼らしか頼れないのも確かで行くしかなかった。

「聴きたいことは分かってるんだろう?」

扉付近から動かずに二人を見る。
ヴェルグは煙草を消す。
仮面男は笑っている。

「アリスのことだろ?」

ヴェルグは真剣な顔で言う。
ディクセンは動じることなく頷く。

「一応忠告はしたんだがダメだったんだな」

二本目の煙草に火をつける。
ディクセンはカウンターに近づく。
テーブルに手をつける。

「こうなると分かっていたんだな?」

少し怒ったように言う。
それに仮面の男はくつくつと笑う。

「運命とは強い信念がなくては変えられないものですよ」

紅茶を優雅に飲みながら言う。
それにディクセンはキッと睨む。

「運命と簡単に口にするが貴方達は何を知ってるんですか?まるでアリスの全てを分かってるような口ぶりで…」

ディクセンはそういうと顔を下にする。
分かってる。
俺達が知らな過ぎるんだ。
これは完全に八つ当たりだ。

「八つ当たりは止めて下さい?あの子の事を目覚めさせるくらいの資格があるのに…」

仮面の男はそう言うと目を瞑る。
ディクセンは何も言えなかった。

「資格」とやらがあったとしても何も知らなすぎることを恥じていた。
いつかアリス自身から話があるかもしれないと思い何も聞かなかった。
そして今回の事が起こった。
知るべきなんだ。
知らなければならなかった。

だから、ここに来るのも事が起きてからになったんだ。
そう、全ては遅すぎる判断ミスのせいだ。

「まぁまぁ。とりあえず座んな」

そう言うとコーヒーを出して座るように催促す。
ディクセンもその好意に乗りカウンターに座った。

「で、貴方達はアリスのなんなんですか?」

ディクセンはちらりと見ながら伺う。
何かしらの繋がりはあるんだと思うが、それがなんなのかは分からない。
知らなければならないと思った。
その時だった。

ガランと音を立てて店の扉が開く。
そこの立っていた人物を見てディクセンは顔を伏せた。

「よー…、よくも人をボコって行きやがったな。いいかよく聞け!この…」

「黙ってくれないか?今お前に構ってる暇はないんだ」

ディクセンはそこに立つスーカーの言葉を遮った。
もういい加減に人の邪魔をするなよ、と思いながら頭を抱える。

「貴様ぁあ!俺の登場シーンを遮りやがって!!表へ出ろ!!勝負だ!」

スーカーはそういうと武器をディクセンへと向ける。
ディクセンはやれやれと頭を抱える。
今はこいつを相手してる暇はない。

「だが断る。お前に構っていられるほど暇じゃあない」

ディクセンはスーカーの顔を見ることなくそういうとコーヒーを飲む。
その態度にスーカーは激怒した。

「ディっクセンっ!アーぁルノぉーツぅ!!!貴様はっ!学園時代から!俺様をバっバカにしやがってぇッ!!!許っさん!!、許さんぞぉっ!!」

そういうと武器をディクセンへと向けて一撃を放つ。
だが、それはディクセンに届くことなく止まる。

「スーカー君。店の中で武器を振り回さないで下さい。ここは辺鄙ではありますが私は結構気に入ってるんです」

片手でスーカーの一撃を止めたのは仮面の男だった。
彼はそう言うとスーカーの耳元で何か囁く。
すると激怒していたスーカーは慌てて武器をしまう。

「今日はこのくらいにしといてやる!次覚えてろ!!」
そんな捨て台詞を吐いてスーカーは店を慌てて出て行った。
一難去って仮面の男はにっこりと笑いディクセンの横に戻る。

「人の店を壊す気かよ。ってか辺鄙って言うなよ。ひでぇな」

ヴェルグはそういうと紅茶を出す。

「ふふ、こんなとこのお客さんなんて癖者だらけじゃないですか」

それにディクセンはため息をつく。

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