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余命宣告病棟第六話「紫陽花と写真」

「で、屋上なわけ?」

私たちはと言うと病院の屋上へと来ていた。
何故かと言うと彼女の言った通り紫陽花を見に雨の中来ていた。
どこへも行くことの出来ない彼らの為に屋上は緑で生い茂っていた。

そこの紫陽花を見に来ていると言う訳だ。
彼女が気が済むならそれくらいなら良いと思ったが何故かメンバーは私と彼、そして発案者の彼女だった。
流石にこの雨じゃ外に出るものはいない。
当り前だ。
わざわざ濡れて病気を悪化させかねない。

しかし私はそう長くない彼女に着いて行くという形で許可した。
そして本ばかり読んでないで、と彼も連れていかれることになった。
彼女は紫陽花を見てはしゃいでいたが私たちは鬱陶しい雨にうんざりしていた。
だが、この雨がなければ彼は彼女を知ろうとはしなかっただろう。
知りたいと思わなかっただろう。

「もう、二人ともちゃんと見てる?紫陽花だよ?紫陽花!」

彼女はむすーっとして私たちに話しかける。
彼はそんな彼女の濡れた肩をタオルで拭く。

「そうだね。君はバカぽいから言っておくけど、紫陽花は酸性とアルカリ性で色が決まってくるんだよ」

「なにそれ~。あれでしょ。アルカリ性は青くなるんでしょう?」

「へぇ意外に知ってたんだ」

えっへんと言った感じで言うも彼は苦笑いした。

「どうせ某スポーツ飲料が青いのがアルカリ性だからとかそんな覚え方でしょう?」

「あ、バレた?」

彼と彼女はそんな他愛もない話をしながら並んで紫陽花を見ていた。
私はと言うと少し離れたとこから二人を見つめていた。
そういえば、と思い私は彼らに携帯を向けた。

「二人ともこっち」

そう声をかけると二人は振り向いた。
私はすかさず、ぱしゃっと、カメラで二人を撮った。

「いいツーショットだ」

「あーあーあー!!先生ひどーい!」

彼女は慌てて走り寄り消すように言って来たが私は笑って保存をした。
残り少ない彼女と彼を忘れないために……。
何時かその日が来たとき彼女にも彼にも渡そうと思う。
こんな日々があったということを思い出して欲しいから。

「先生、子供じみたことするんですね…」

「いつか君たちにも渡すよ。私は君たちの記録係だ」

そう言って笑って見せた。
彼女はそれに笑い「いっぱい撮ってよ」と言って来た。
これは仕事を増やしてしまったな、と思った。
それでも今笑うなら、と思い頷いた。
彼は不満そうだったが彼女が笑っているのを見て何も言わなかった。
彼なりに納得してくれたんだろう。

それから私は何枚か彼女の希望に添い写真を撮った。
笑ってる彼女。
どこまでも純粋で曇りなく笑う。
彼はそんな彼女の横で笑いもせず立っていた。
1時間ほど居ただろうか?
身体も冷え始めてるので帰る様に私は声をかけた。

「楽しい時間ってあっという間。ずっと続けばいいのにね」

そう言って紫陽花の花に触れた彼女をこっそりと撮ったらなんだか女優の写真集ようなものになっていた。
彼はそう言った彼女の横まで行くと

「楽しいことも苦しいことも半々なんだって。神様はそういう風に僕たちを創ったんだって」

「へ~、神様信じるんだ?」

「例え話だよ。信じてるわけじゃない」

彼なりに励ました、と言った形だろうか?
それでも二人は前より仲良くなれただろう。

「さぁ、二人とも。病棟内へ」

それぞれ濡れた服を着替えるため自分の部屋へと戻った。
私も濡れた白衣脱ぎ新しい白衣へと着替えていた。

「先生なんかいいことありました?」

着替えているとナースから声がかかった。
私はそれに吃驚した。

「いや?散々な目に逢っているがな……」

「とても嬉しそうに見えましたけど勘違いでしたか?いつも感情を出さないからいいことあったのかと思いましたが気のせいでしたか」

嬉しそう?
私が?
この病棟に来てそんな事忘れていた。
いや、忘れなければきっと私が壊れてしまうだろう。
ここは『死』しかないのだから……。

彼の手紙にも紫陽花を初めて見に行った日のことが書かれていた。
『紫陽花を見に行った日のことを覚えていますか?あの日あんなにはしゃぐ彼女を見て僕も内心楽しく思ってました。
まだ、僕たちは笑って過ごして行けるんだと嬉しく思いました。
そして、先生が撮ってくれた写真も楽しみで仕方なかった』

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