
始導-Shido-第二話「覚醒」5
「森の中に入っていたぞ!」
「追え!!!」
森の中で息を磯ませて相手の様子を見ていた。
(パパ達がアリスを見つけるまではなんとしても逃げ切らなきゃ)
今いるところ人数が減ったの確認すると白兵攻撃をする。
当たりはしたものの範囲系の攻撃が出来ないアリスは次の攻撃に備えた。
「天使だ!捕まえろ!」
そんな声にアリスの周りに人が群がる。
正直なところ、ここまでの相手はしたことはない。
一般市民という訳ではないし加減など無用だろう。
心のどこかで響く声。
大丈夫。
記憶を呼び覚ませばいい。
この剣の本来の使い方は…。
アリスは向かってくる敵の攻撃をヒラヒラとかわす。
まるでどう出るか分かるようにかわしていった。
いや、もう見えているのだろう。
それはゆっくりと確実にアリスを侵食する。
「安い攻撃なんてアリスには効かないよ」
そういうと剣を掲げる。
あの日のように輝きを放つ。
瞬間、辺りは冷たい空気が漂う。
そしてその冷気に触れた者達が叫び凍っていく。
慌てて逃げようとした者もいたが逃げ切れず凍る。
アリスは何も映さない瞳でにやりと笑う。
それはどこか不気味で無邪気なアリスとは違った。
全く別の何かのようだった。
「ツマラナイ」
ぼそりと呟く声が響く。
アリスのようでアリスではない。
其の時だった。
「アリス—」
アリスを呼ぶディクセン達の声だった。
其の声が聞こえるとアリスは意識を手放した。
ドサっと倒れる音にディクセン達はアリスを発見した。
其の周りの氷付けになった冒険者も…。
これ以降天使狩りは無くなった。
六枚の翼を持つ天使に逢うと天罰を受けるとう言う噂が流れたからだ。
勿論流したのはディクセン達だ。
だが、あの事件以降アリスは目を覚まさない。
剣は主の目覚めを待つかのようにキラキラと光っていた。
アリスが目を覚まさなくて一週間。
医者に見せてもその原因は分からず過ぎていった。
カシャとイルトも色々と魔法を試してくれたが現在に至る。
このまま起きないんじゃないかと思うくらいの不安が流れた。
いつもの様にカシャとイルトを寝かしつけてからアリスのベットの脇に行く。
「2人は寝たのか?」
レイフォルトはディクセンが椅子に座るのを見ずに聴く。
がたっと椅子をずらして座る。
「あぁ。」
短く返事をする。
二人には会話はなかった。
どうすることも出来ない自分達に腹を立てていった。
護ると決めていた筈が護れなかった。
護れなくてこうして目が覚めないでいる。
自分達が付いていればよかったんだ。
そうすれば…。
二人ははっとする。
『鎖連亭』
あそこにならなにか手がかりがあるかもしれない。
問題はどっちが行くかだ。
「こういうのは俺は合わない。兄貴行って来てくれよ」
確かにこういう話合いはレイフォルトには合わない。
レイフォルトもディクセンもそれは分かっていた。
ディクセンは小さく頷き席を立つ。
「ここはお前に任せる。頼んだぞ、レイ!」
そう言うと宿屋を後にした。
レイフォルトは窓から覗かせる月を見てどこか不安になっていた。
雨の上がった空はカラッと晴れ渡っていた。