偶然と必然の間にある運命に導かれて二人は…
第三話「アマイオレイ」
玄関を上がると左側にドアがあり、剣護の自室のようで机にカバンが見えた。
細い廊下を抜けるとリビングになっており客を迎え入れる為に小奇麗にされていた。
サフィーはリビングの椅子に座るとキョロキョロと辺りを見回した。
「思ったほど悪くはないデスね」
剣護は苦笑いをしながらポットからお湯を注ぎお茶を用意した。
サフィーは慣れた匂いに微笑む。
「ウム、安物ではあるが紅茶とか気が利くな」
「僕は緑茶よりこっちの方が好きなんだ。まぁ…安物ですけどね」
そっとカップをサフィーの前に置き、紅茶を注いだ。
急いで用意したものだが、嫌なわけではなさそうだった。
そっと口に運ぶ姿を見つめた。
何か言われるのではないかとドキドキしたがそういうこともなさそうだった。
「そういえば、サフィーちゃんはよく僕の家分かったね?調べたの?」
「サフィーの家にかかれば凡人など一発デス」
「ははは…。サフィーちゃんの家はお金持ちなんだね」
どんな家かは聞かないほうがいいだろうと突っ込まなかった。
まぁ、お嬢様ではあるのだしお金持ちなんだろう。
「剣護」
「ん?」
サフィーが改まって剣護を呼ぶ。
剣護はニコニコしながらサフィーの言葉を待った。
「その…この間は…」
「うん。風邪は引かなかった?女の子なんだから身体冷しちゃダメだよ」
サフィーの言葉を察することのない返事。
少し『ムー』とした表情になる。
サフィーは少しして立ち上がると剣護にチョップをかます。
「!!??」
「少しは察しやがれデス!!この鈍感男!!」
そう言って差し出されたのはあの日の傘。
剣護は吃驚したこともあり、眼鏡を直し笑った。
怒ってはいるけど耳が赤くなってるその少女はさらに怒ったが、それでもあの日置いていったこの傘が
この女の子を自分の元へと導いてくれたから…。
『出逢いに感謝しなさい』
そう、小さな頃そう『誰か』に言われた。
覚えているのはその言葉だけ。
その言葉が今の自分を作っていた。
「サフィーちゃん。ありがとう。お礼言いに来てくれたんだね」
「サフィーとの出逢いに感謝するといいデスよ!」
その言葉に何かドキっとしたが、それよりなによりこの少女が自分の為にお礼の品まで用意していたなんて
喜んで踊ってしまいそうだった。
(まぁ、剣護はそういうタイプではないけれど…)
渡されたのは小さなザッハトルテだった。
こんなものが贈られるなんて男として嬉しいだろう。
剣護は早速それをレンジへと入れて暖めた。
「サフィーちゃん。半分こしよっか」
そう言うと半分に切り小皿に取り分ける。
中のチョコがとろりと蕩け出しやんわりと湯気を立てた。
その様子にサフィーは満面の笑みを見せる。