
始導-Shido=第三話「始まりと終わり」3
不条理にも朝は訪れる。
まだ昨日ことがはっきりと自分達の中に収まることがない。
「粛清装置」だなんて理解できない。
そんな気持ちでディクセンとレイフォルトは目を覚ました。
アリスは起きる様子もなく静かに眠っていた。
一度医者にみせて様子を診るべきかと思った。
「レイ。俺は今日父さんと連絡を取ってみようと思う。なにか分かるかもしれない」
仕度を手早く済ませたディクセンはレイにそう言う。
レイフォルトはそれに頷きちらりとアリスを見た。
「俺はアリスを医者に見せてくる。多分どうにもならないとは思うがこのままなにもしないよりは良いと思うんだ」
そっとアリスの髪をかきあげる。
そんな動作にも目を覚まさないアリスを二人は本当に心配し不安になった。
その日二人はそれぞれ別れ行動をした。
そんな二人を白皇は遠くから見つめていた。
それはいつか起こる「粛清」を見守るためなのかは分からないがその瞳には何も映し出しはしなかった。
外に出てディクセンはある異変に気が付いた。
そう、空が暗い。
昼間だというのにこの暗さは異常だ。
急ぎ足で神殿に向かい父親に連絡を取るのだった。
レイフォルトは眠ってるアリスを診てもらっていた。
やはり異常はどこにもなく、ただ眠っているだけみたいだった。
医者が帰りレイフォルトはアリスに触れる。
「アリス…」
ディクセンが父親と話してるときだった。
それは突然に起こった。
ズシンとくる音と共に大きな揺れが起きた。
それは通話の宝珠の向こうにいる父親の口からこぼれた微かな言葉。
「粛清だ」
ディクセンはそれを聞き逃さなかった。
聞き返したかったがそういう状況ではないようだ。
慌てて通話を切り、宿へ向かった。
大きな揺れが起こってしまった時アリスが薄っすらと目を覚まし動き出した。
レイフォルトは慌ててアリスに声をかける。
「始まる、やらなくてはいけない」
そうブツブツと呟きアリスが剣を手にしたとき剣は輝きを取り戻したように光を放つ。
そして、二階にも関わらず窓から飛び降りた。
慌てて窓に向かうとそこには古代龍が現れていた。
「レイ、アリスを!」
下のほうから聞こえるのは間違いなく兄のディクセン。
レイフォルトは慌ててアリスの手を掴み飛び降りた。
『それは我々のものだ。返してもらおう』
古代龍はそう言うとアリスに掴みかかる。
レイフォルトは慌てて剣を構えた。
「こいつは俺達の、俺達の娘だ!」
無力だろうけどレイフォルトは古代龍に立ち向かう。
ディクセンもそれに応戦した。
街はパニックになっていた。
まさか龍がこんなところに現れるなんて誰も予想は出来なかっただろう。
二人の後ろにいたアリスの目は虚ろだった。
例え勝てないにしろ出来ることをしたい。
2人はそう思った。
「パパ…」
その時アリスが二人に声をかける。
そして、二人の間をすり抜けて古代龍の元へと行く。
アリスは古代龍と会話するかのように虚ろな表情なまま古代龍に触れる。
2人は嫌な予感がしていた。
このままでは、きっと起こってしまう。
龍は少しすると羽ばたき町中暴れた。
アリスはそれを静かに見守った。
表情はなかった。
「私は、私の役目は…」
アリスがソレを口にしようとした瞬間ディクセンは頭を撫でた。
「お前は俺達の娘だ。装置になんかさせない」
レイフォルトはそう言うと剣をぎゅっと握り返した。
ディクセンも武器を構えそしてアリスの前に立った。
「例えそうだとしても。お前はもう家族なんだ。護ろう。守ってみせよう」
強がりだと分かっていてもアリスはその言葉に俯いた。
「パパ。アリスは幸せでした。旅は楽しくてずっと足手まといだった。けど、けどね。やっとアリスは役に立てる」
そう言うとアリスは輝きが増した剣を掲げる。
「古代龍よ。いくら貴方がいても装置がなくては粛清はされない。ここまでだよ」
そう言うとアリスは翼を羽ばたかせ古代龍の前に行く。
「これ以上好きにはさせない。アリスが愛した世界。愛したパパを護る為ならアリスは怖くない」
光が増す。
光が消えたと思ったら古代龍とアリスは消えていた。
そして、アリスの剣が落ちてきた。
光は失い寂れた一本の剣。
そこに仮面の男が現れた。
「粛清はされない。なぜなら彼女はこの世界を愛してたから」
そういうと剣を二人の前に差し出す。
「運命が廻るというならいつかまたいつか会えるでしょう」
僅かな時間だった。
それでも、『パパ』と呼んで笑っていてくれた。
そんなアリスはもういない。
どこにもいないんだ。