
始導-Shido-第二話「宿命の相手」3
雨が止んだ頃ディクセン達も仕事が終わっていた。
仮面の男の言葉も気になり一緒にいた冒険者には一杯誘われたが断り帰路に着いていた。
どこか暗く薄気味悪い空気が漂っていたのを感じ足取りは速い。
アリスの顔を見るまではきっとこの不安は消えないだろう。
「きひひっひ。こんなとこで油売ってるのかよ?お気楽なもんだなぁ」
突然後ろから声をかけられてディクセンはうんざりした。
今一番会いたくなかった相手だ。
「なんだ、その嫌そうな顔は!この俺様がわざわざ出向いてやってるんだ。感謝しろ!」
超迷惑なこの男は同じ冒険者で後を着いてきてるかのように出没する。
自称ライバルらしい。
ディクセンもレイフォルトも鼻にもかけてはいないがこうして現れては邪魔をしてくる。
この早く帰りたい気持ちを持っているのにこいつはタイミングが悪い。
騒動は起こしたくないが相手をしてる暇もない。
軽くあしらってさっさと帰ろうと手を出そうとした時だった。
「俺に手を出したらガキはどうなるか分からないぜ!」
その言葉にぴくりとする。
「知ってるんだぜ〜?お前の大切な子どものことを」
まるで何もかも分かってるように男は言う。
その言葉に真意があるかは分からないがディクセンは握った拳を隠した。
「なんのことだ?」
知らないふりををしながら相手との距離を取る。
こいつはアリスの何かを知っていると悟った。
そして今アリスは安全でもないということも・・・。
なんとか聞き出して助けに行かなくてはならないと考えるがそうは上手くはいかない。
こいつもそう簡単には行かせてはくれなそうだ。
「いいのか、そんな事言って。大事なんだろう?あの羽の生えた子どもが」
やっぱり知っていたなと思い、どう動くか悩んでいた。
力づくっていうのは性に合わない。
だがこいつは話で終わるなんて事はない。
ここはやはり戦闘するしかないのかと考えていた。
上手くレイフォルトがアリスを保護してくれたらこんなやつ無視なんだが・・・。
「すかぽんたん。挑発しているつもりだがわざわざそれに乗るつもりはない。さっさとそこをどいてくれ」
ディクセンがキッと睨み道を開けるように言う。
しかし、すかぽんたんと呼ばれた男が「がははは」と下品に笑うと武器を取り出しディクセン目掛けて攻撃をしてきた。
だが、それを避けられないほどディクセンは遅くない。
ひらりとかわすと剣の柄を握る。
やはり戦闘は免れない。
分かっていはいたが戦うしかないのだろう。
「俺様をすかぽんたんと言うな!俺様はポーンタン家のスーカー様だ!!」
スーカーはそう言うと戦闘体制に入る。
お互いどう動くか見合っていた。
素早さで言えばディクセンの方が上だが一撃の重さはスーカーの方がある。
少しずつ距離を詰めて間合いを取る。
一撃で倒さなければ時間がない。
こうしてる間にもアリスの身に何か起こってるかもしれない。
急ぐ気持ちが焦りになっていた。
こんなところで足止めされてるわけにはいかない。
「スーカー・・・一撃でお前を沈める」
ディクセンは下を向き一言言う。
「やれるものならやってみな。俺はそんな柔じゃないぜ」
そういうとスーカーが振りかぶりディクセンを叩き潰しにかかる。
勿論これは避けられることはお互い分かっていた。
ディクセンはひらりと避けると間合いを取り追撃に備えた。
予想通り追撃が横腹目掛けてくるのを交わし、あいた背中に回りがら背後に一撃を入れた。
案の定スーカーは踏ん張ったがディクセンの一撃は急所を突きスーカーは倒れた。
「今日はここまでにしとく。次は手加減はしない」
そう言い捨てると急いで帰路についた。
一方アリスへの土産を買うべく為に別行動を取っていたレイフォルトは大通りの中にいた。
丁度市が開かれていて賑わっていた。
「さぁて、アリス好みの土産はないかなぁ〜」
あちらこちらに目ぼしいもの見つかりがどうもしっくりこない。
そんな物色中にちらりと聞こえてきたソレを聞き逃せなかった。
「そういやこの町に天使がいるんだと」
「見た見た!小さな子どもだろ?」
「今、飛天族狩りが流行ってるそうじゃないか」
「高く売れるそうだぞ」
「俺もその天使捕まえて金儲けしたいわ!」
すれ違った男達ははそんな話をして笑って去っていた。
どう考えてもアリスの事だろう。
レイフォルトは嫌な予感がした。
「あいつ・・・外出てないよな・・・?」
嫌な予感は当たっていたのか市の端っこのほうから騒がしい声がした。
「天使だ!!」
「捕まえろ!」
「・・・あいつ・・・」
頭が痛くなってくる。
人前で羽は出すなとは言ったが見つかったに違いない。
レイフォルトは深いため息をつくと声のする方へと急いだ。