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始導-Shido-第二話「鎖連亭と亭主」2

「はいよ、子猫ちゃん」

そう言うとコトリとアリスの前にカップが置かれた。

「ありがとう、おじさん」

アリスはそう言うとカップに口を付けて飲む。
雨の中歩いていたせいで冷え切った身体にはちょうど良かった。

「おじさんは止めてくれ!俺そんな年いってないから。お兄さんにしといてくれよ」

苦笑いしながら男は言うとアリスが飲んでいるのを確認し店の奥でゴソゴソやり始めた。

「そういや子猫ちゃんはどこに行く予定だったんだ?」

奥から戻ってくると男はアリスの前に腰を下ろす。

「ここ。」

「・・・・は?」

アリスの返事に男は間抜けな声を出す。

「この鎖連亭を探してたの。変な仮面の人がここに来ると良いって言ってたから・・・」

そう言うと男を見つめた。

「仮面っていうと・・・あいつか」

知り合いのようで腕を組んで悩み始めた。
少しすると瞑っていた瞳を明けてアリスを見つめた。

「そういや自己紹介がまだだったな。俺はヴェルグ。この鎖連亭の亭主だ」

ヴェルグはニッと笑う。

「アリスはアリスって言うの。パパ達と自分探しの旅をしてるの」

自己紹介するアリスに対しヴェルグは「そうか」と言って頭を撫でてきた。

そうこうしてる間に日は暮れていて外は暗くなっていた。
雨は止んだのか静かになっている。

「子猫ちゃん。そろそろ帰らないとパパ達が心配するんじゃないか?」

色々話していて時間が過ぎていくのが分からなくなっていたみたいでアリスは慌てて帰る支度をした。

「ヴェルグ、今日はありがとう」

アリスが礼をいい店の扉に手をかけるとヴェルグが話しかけてきた。

「そうそう。今日は大人しく帰るんだぞ?間違っても街の外には行くなよ?」

ヴェルグがそう忠告しながらヒラヒラと手を振る。

「それ仮面の人も言ってた。大丈夫、パパ達待ってるからちゃんと帰るよ」

アリスは笑って言い残し店を出た。

「まぁ、運命には逆らえないだろうがな・・・」

そう呟いたヴェルグの声はアリスには届いてはいなかった。

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