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夢想館第7話

今日も歌って踊るのよ?
ねぇ、私ここにいるわ。
見えているかしら?

俺はいつだってお前の為にここに立つんだ。
俺の声、お前にも届いてるか?
お前の力になれてるか?

交差する想いが聞えてくる。
そんな昼下がり。

「今日も平和だね~」

猫がポカポカのお日様の下でゴロゴロとする。

「平和だといいね。そろそろ、かな?」

「え~、なにぃ?」

ゴロンと猫がひっくり返ったとたん。

≪ドン≫

「いってぇー!」

「もう、なんなの?」

二人の男女が落ちてきた。
男の子を下に女の子が上に落ちた。

「いらっしゃい、今まさに売れてるアイドルさん」

「アイドル!」

猫は吃驚して少年の元に戻る。
少年はいつものように笑って迎える。
しかし、二人は喧嘩を始めてしまって少年の事など見えていないようだ。
流石の少年も困り果てていたら店がざわめき始めた。

「やれやれ。困ったものだ。少しは静かにしてくれるかい?トップアイドルのお二人さん」

少年は冷たい眼差しで喧嘩をしていた二人を見下す。
それに気が付いたのか二人は静かにして並んで少年の前に正座をする。
少年が怖い顔でにっこりと笑う。

「僕の店のものは騒がしいのが嫌いなんだ。喧嘩ならよそでしてくれるかな?」

「「すみませんでした」」

ざわめいていた店がいつもの静かさを取り戻す。
やれやれといった感じで少年は席につく。

「さて、二人で来たってことはそれぞれに資格があったんだろうから聞こうか」

少年の言葉に二人は顔を見合わせた。

「私はこの人とアイドルするのが嫌なんです!」

「なんだと!俺だってお前みたいなお嬢様の子守りなんて仕事じゃなきゃお断りだよ!」

2人がまた喧嘩を始めそうになったので少年は深いため息をついた。

「分かった。一人づつ話を聞こう。猫」

「全く、ほらそこのトップアイドルさんこっちおいで」

「…猫が喋った…」

「残念だけど、ぬいぐるみでも機械でもないよ。ほら付いて来て」

そう言うと青年を連れて猫は奥の違う部屋へと向かった。
少年は残った少女の顔を見てにっこりと笑う。

「これで素直に話せるかな?」

少女は下を向いた。
素直に話すと言うことが少女には出来なかったのかもしれない。
いや、知らないというのが、正しいのかもしれない。
「君の事はよく知ってるよ。家柄も、アイドルしてる理由も、そして皆に隠してるそのことも、ね。それを踏まえて話を聞こう」

少女は吃驚とした目で少年を見た。
大きく丸い瞳が印象的だった。
彼女はその瞳を少し閉じかけてぽつりと話し始めた。

「私の声は…ちゃんと届けたい人に届いてますか?」

「だったらこれを付けてみるといい」

少年は彼の後ろにある品々の中から一つの髪飾りを取り出す。
それは大きな白い花が2つあしらわれたモノだった。
少女は髪飾りを受け取るとその豊かな髪に刺す。

「では、確認の旅をしておいで。君のその瞳でしっかり見てくるといい」

少年がそう言うと少女は静かに目を瞑ってそして、深い眠りの旅へと出て行った。
それは果てしないかもしれない願いの旅…。
ソファーに横にさせて、少年は猫に青年を連れてくるように声をかけた。
青年は不満そうな顔をしながら歩いてきたが、少女が横になってるのを見て青ざめた。

「何した…?」

「彼女は今願いの旅に出ているから暫くは起きないよ」

「なぁに?願いの旅って…」

「彼女が髪飾りに付けてる花には夢への旅が出来る効果があるんだよ」

「旅…か…」

青年はソッと少女に頬に触れる。
暖かいことを確認して、胸を撫で下ろした。

「さて、君の願いをそろそろ聞こうか?」

少年はそう言ってお茶を渡す。
青年は受け取り一口飲むとテーブルに置いて立ち上がる。

「俺はこいつを救いたい。こいつの代わりになりたいんだ」

「どういうこと?」

「俺は一番のクズだった時こいつに救われた。だから、今度は俺がこいつを救いたい。こいつの願いは知ってる。だから…」

言葉が詰まる。
それだけ強い想いなんだろう。

「こいつさ、親が海外を周ってて家になんて殆どいないんだよ。自分が頑張ってるって見て欲しくてアイドル始めてさ。なのに、病気になんてなりやがって…」

青年はうな垂れた。
少年はそんな青年の姿を見ながらお茶を飲む。

「俺が居なくたってこいつはトップアイドルだ。だから、俺の声を犠牲にこいつの喉の病気を治してくれ!」

青年は覚悟した様に少年に言う。
少年はそれを見つめてそっとカップを置く。
椅子から下り、青年の前に行くと静かな目をした。

「それは自分の声を代価に彼女の声を取り戻させる、ってことで良いのかな?」

「…あぁ」

ぎゅっと拳を握り覚悟する。
少年が青年の頬に手を当てる。

「それで彼女の願いは叶うと思うの?」

「あいつの願いは親に見てもらうことだ」

「では、みんなで確かめに行こうか?」

「え?」

「彼女の確認の旅を見に行こうじゃないか」

青年と猫は目を丸くした。
それはそうだ。
突然の言葉に戸惑う。

「君が見ていた彼女は本当に全部だったのかな?もし、君のその覚悟が少しでも揺らいだなら別な願いをかなえよう」

部屋が、とある日のステージ脇に変わる。
周りには彼らが見えていないのか慌ただしく人が準備をしていく中彼女が脇にたち不安そうな顔をしていた。

「おい、こんなとこで緊張してヘマすんなよ」

それは過去の青年だった。

「す、するわけないじゃない!私を誰だと思ってるの?失敗なんてあり得ないわ!」

「せいぜい足引っ張んなよ、ブス」

「誰がブスよ!」

忘れもしない初ステージの時だった。
ここから俺たちは始まった。
何度ステージに立っただろう。
笑って喋って、歌って、踊って…。
そんな日の繰り返しだと思ったのに…。

「え?」

「喉に腫瘍が出来てます。取れば命に関わらず済みますが声を失います。」

「声を、失う…?」

衝撃だった。
俺もあいつも。
ここからって時に、声を失うって話。
俺は聞かなかったことにしてずっと接していた。
あいつもそれは何も言わなかった。
楽屋で一人でいる少女は鏡に向かう。
そっと手を鏡に触れる。

「ねぇ、届いてる?いつも私の傍らで支えてくれた貴方。もうすぐ一緒に居れなくなっちゃうね」

鏡に話しかける。
青年はそれを見て立ち尽くす。

「最後はとびっきりのステージにするからね。貴方が一人でもやってける様に…」

彼女はそう言うと小さく涙を流しソッと拭き取りまた笑った。

「なんで…なんでだよ!」

青年は怒鳴った。
彼女の旅の終点は青年だった。

「二人でトップアイドルだろ?なんで…なんで…」

「私の声は届いてたよ。ちゃんとお父様にもお母様にも…だから今まで支えてくれた貴方がこれからもずっとステージに立てるようになることが私の願い…」

青年の後ろから少女は現れそう言う。
青年は言葉を失った。

「さぁ、聞こうか?覚悟は揺らいだかい?まだ一人犠牲になればいいと思ってるかい?」

少年の言葉に二人は顔を合わせる。
お互いの覚悟は揺らいでるようだった。

「代価をもらおう。新たな旅立ちだよ」

少年はいつものようにお茶を飲む。

「たまには音楽を聞くのも良いね」

そう、あの二人はこれからもトップアイドルとして居続けることで代価は支払われた。
笑いあう二人。
きっと届いてるよ。
君たちが届けたい人、元気をあげたい人に…。

 


こんなにも君たちはキラキラしてるんだから、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ー夢想館ー
本当の願いを見つけてくれるお店。

ー夢想館ー
貴方と誰かとそして交わる願いを叶えるお店。

ー夢想館ー
きっとハッピーエンドを望むお店。

 

 


貴方も覚悟があればこのお店に訪れることが出来るのかも?

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